東洋体育の本

kidsone2007-04-29


東洋体育の別宝35号 (別冊宝島 35)

東洋体育の別宝35号 (別冊宝島 35)

ちょっと、よそのサイトに書いた内容ですが、ここにも載せておきたくなったので、一部変更して、転載します。このごろ、心の問題と平行して、健康とか運動の話ばっかりになってきたので、この僕にとって、非常に重要な本を紹介しておきたかったのであります。


ちょっと気になって、アマゾンで検索したのですが、僕のお気に入りの、「東洋体育の本」って、あんまり流通されてない感じですね。増刷もかかってないみたいだし。(2年ほど前に一度だけ、突然増刷されたようです。)

うーん。多くの人に紹介したいのに、困った。

しょうがないから、アマゾンの頁だけリンクしておきましょう。興味ある人はマーケットプレイス(古本販売)でも使ってください。

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4796638911/glfclb-22/ref=nosim

この本、作者は津村喬さんと言って、関西気功協会を立ち上げた人としても知る人ぞ知る方。実は、mixiにも入っておられるので、日記とかも読めます。

書籍はムック形式で、いくつものエッセイをまとめたような本なのですが、日本や中国など、アジア圏で、親しまれている体操や健康法などを網羅的に紹介してくれている本で、実は隠れた名著なのです。

まず、医食同源に代表される、中国や日本に流れる「東洋の生命観」という大枠の考え方から説き起こして、西洋風の「体育(たいいく)」というよりは、「体育(からだそだて)」の発想で自分の体とのつきあいを考えようと提案している本でして、僕は随分この本の影響を受けています。

内容としては、太極拳からはじまって、日本の操体道、西式健康法、リンパマッサージ、経絡指圧、気功法、自発動功、綜統医学、真向法、野口整体、などなど東洋医学・体育の「かんたん体操」やマッサージ、考え方などの総カタログになっていまして、西洋の「競い合うスポーツ」とは一線を画した、「生活の中の、いますぐできる健康体操」の解説本になっているのです。(イラストも豊富で、ソワイショウとか金魚運動とか、基本的な体操の仕方も手に取るようにわかります。素晴らしい!)

この一冊で体をとりまく考え方や、自分の体とのつきあい方、世界や物事の捉え方まで大きく変革・学習することができて、とても実りの多い本です。まさに名著と言えましょう。

この本に出会ったのは、ちょうど僕が始めて働きだして二年ほどした頃で、原稿書きのために、夜遅くまで仕事をして、全然運動もせず、いろいろな意味で精神的にまいってしまって、会社をクビになる前後の事だったのです。

心の危機に、「からだそだて」の考え方がしみいるように入ってきて、次の仕事を見つけるまでの間に楊式の太極拳を習いに行って、とてもおだやかな安らぎを得たことが忘れられません。

僕が働いていた時は、ちょうどワープロが出始めの頃で、個人的にNECのPC-9801Fあたりを買ったというような頃でした。

で、コンピュータというのは、まさに西洋文化の塊のようなもので、これはこれで実に便利なもので、素晴らしい!とは思ったのですが、こと、体のことに関しては、どうにも西洋的なアプローチである「競争」が前提になったような捉え方や、競技としてのスポーツ、あるいは、人間を全体で捉えるのではなく、部位ごとに分析的に捉える考え方が「体というものを考えるには、あまり適していないアプローチだよな」と思ったのですね。

で、当時の僕の印象としてあったのは、

●頭脳のターボチャージャーがPC(西洋文化)
●心のターボチャージャー太極拳(東洋文化)

というポジショニングだったんですね。
とにかく西洋風の、

・競技/競争/数値/分析的

というやり方が、「からだ」というものに関しては、全然向いてない気がしてしょうがなかったわけです。

デジタル化によるパソコンやワープロでの知的分野の合理化手法というのは、「さすがは西洋文化!」という感じで、たいしたものだ、という感じがあったのですが、「パソコンで自分の能力をパワーアップしたら、それとバランスを取るために、こころのパワーアップも必要だよな。で、それは多分西洋的なアプローチでは病気になるだけだわ。やっぱ心のパワーアップを図るなら、それは東洋の太極拳のようなものなのではないか?」というのが、僕的には結論だったのです。

特にアジア人の場合、パソコンという機械の設計思想の中に内在している「キャリアアップの思想」「自己責任の緊張感」みたいなものは、ちょっとそのままそれだけを受け取ったら、日本人の僕としては、精神的に耐えられないって気がするのですね。

だって、パソコンのデータって、「消えてしまうように設計されている」んですよ? 違います? もともと「自由に消せる」という権利・自由度が与えられているのだけれども、それは「自己責任」でバックアップを取っておかないと、自分の努力の結果が、この世から跡形もなく消えても、誰にも文句言えない、という仕組み・考え方で作られているんですよね、PCって。

この「自己責任」の発想こそ、欧米の文化なわけでして。

日本の家電メーカーがパソコンを作ってたら、データ削除のコマンドなんて、「管理メニュー」の、一番奥の、特殊な操作方法をした時にだけでてくる「特殊操作メニュー」の中に押し込められてるはずです。ユーザーに責任の重さを感じさせない、責任はメーカーの側が取るってのが、日本文化の基礎ですからな。

でもパソコンは違う。設計思想から欧米ですから。精神的に疲れるんですよ、もともと。だから、結局、欧米の「自己責任」の思想で貫き通されたパソコンという道具においては、

●気を抜いたら、あなたの作ったデータも消えちゃうよ。

というのが当たり前の大前提であり、そこが便利でもあるけど、面倒なところでもあるわけです。

「データ消えちゃうかもよ。」

という、この緊張しまくりの構造こそ、まさに欧米文化なわけです。

なので。

緊張すると体も硬くなりますからな。「からだそだて」に関しては、もう、リラックスするために、絶対、東洋文化が良いなぁと、私は思ったわけです。

特に、若くてパソコンの可能性を実感すればするほどに、心や体の問題に関しては、どんどん東洋志向が強まりまして、ほんとに、「からだ」の問題に関しては、全然西洋文化に興味が持てなくなってしまってるのですねぇ。

だから太極拳をそれなりにやってた人間としては、たとえば、マラソンとか「バカじゃねぇの?」とか思ってしまう。時間かかりすぎやん。その割に効果ないし。つまらねぇって思う。

実際、ジョギングですら、僕はちょっとクビをひねるんですよね。
ジョギングの創始者であるジェームス・フィックスという人は、52歳の若さで亡くなったのですが、どうも、ジョギング中に心臓マヒで死んだらしい。ジョギングですらこれです。「はげしく動かないとスポーツじゃない」とでも思ってるんでしょうね。アホな話です。

この十数年で言うと、やっと欧米のスポーツ理論も東洋の考え方に近づいてきたらしくマフェトン理論あたりは、けっこうまともだと思うのですよ。いわく、「心拍数で180-年齢を超えない程度の緩い運動をこそベースにせよ」というもので、これは単純に言ってしまえば、「早歩き以上の運動は体を壊すので注意せよ」ということなのです。

体を壊さずに競技の成績を伸ばそうと思ったら、まず基礎体力として、「早歩き程度の運動を、まずやりなさい」ということです。で、そこがキチンとできていないのに、走るとかの強度の強い運動をすると、体調が悪くなったり、健康をそこなったりするということなんですね。

食べ物においても、似たようなことがあります。
それは、これまた有名な「マクガバン報告」であります。

アメリカでは、1960年代に国民一人当たりの医療費が世界一高くなってしまい、医療費によって国政が破綻しかねないというところまで行った訳です。
なので、いったい健康というものを実現するには何が必要なのかなどを調査した「マクガバン報告」というものがまとめられたのです。確か1970年くらいのことだったはずです。

だいたい健康について語るにおいて、この「マクガバン報告」を知らないというのは話にならないわけでして。
マクガバン報告においては、有名な話ですが日本食が高く評価されました。
「ガンや心臓病などの増加は食生活の誤り」という、まさに東洋の医食同源の考え方がマクガバン議員によって、アメリカ国政に報告されたわけですよ。そして「肉ばっかり食ってたらアカン。日本人みたいにシーベジタブルを食え!」ってなった。

たぶん。おそらくは、この報告がアメリカ人の食生活を大きく変容させて、アメリカ国内で牛肉の売れ行きが多少落ちて、その影響で、米国産の牛肉が日本に流れてきたんだと思うのですよ。

それが1985年頃の「牛肉オレンジ交渉」ってものになったのだろうと思われます。
この後、日本では焼き肉屋がいきなり急増したわけでね。ほんとに。それまでそんなにたくさん牛肉なんて食ってなかったんだし。で、吉野屋が伸びたのも、この「牛肉オレンジ交渉」の後です。

つまりは、アメリカ人がマクガバン報告で「和食が健康に良いのだ!」と気付いたが故に、日本人は牛肉を食わされたって事なんですよ。大きく、20年くらいのスパンで物事を捉えるとね。

だいぶ話ははずれてしまいましたが…。

という事で、こういう大枠の事は分っていながらも、まともなダイエットもしてこなかった馬鹿な私は、腹が出まくりまして、「これはイカン!」と、最近はひたすら歩いております。まぁ、一日1万5千歩くらいですな。そのくらいは歩かないと。それがベース。基礎。下支え、であります。

(また太極拳を始めようかなぁ、とかも思ってたりするのですが。)

ともあれ、やはり日本人には東洋の健康スタイルが性に合うわけで、そういう意味では、石原結實(いしはら・ゆうみ)さんあたりも、たいした医者だと思うのですよね。あの人、漢方の人だしねぇ。実践的で優れてると思う。

まだまだ、いろいろ書きたいことはあるんですけど、それより何より、この「東洋体育の本」という名著が、あまり手軽には入手できないのだという事実の方が、僕的には残念至極だし、くやしいし、寂しいですねぇ。

なんかね、津村喬さん、ムックという事で、雑誌と同じく売り切りで原稿を書いてしまったらしいんですよねぇ。
だから、この本が売れても、著者の津村さんには一銭も入らないし、出版社も力が入ってないわけですよ。内容の良さを理解してないから。

困った事だよなぁ。ほんとに良い本なのに。

うーむむむむ。